ピザ窯に果樹園?ICU学長・岩切正一郎氏に聞く「令和の大学」と「ICU知名度低い問題」

【本記事を読むと分かること】

・世間に魅力が伝わりきっていないICU(国際基督教大学)の雰囲気が分かる!
・学長の岩切正一郎氏に直接インタビューしているので、絶対安心の正確情報!
・ICUの現役生/OPには、学長の意外な側面や進行中のプログラムが知れるかも・・・?

photo by ⓒIchinose

早慶上理ICU

この大学区分の中でも、最後のICU(国際基督教大学)は知る人ぞ知る大学だ。

今回の「スペシャ・リスト」では、ICUの学長・岩切正一郎氏に直接インタビューを敢行。不思議のベールに包まれた大学の、魅力的な真実が明らかになる。

そして、ICUが向かう未来とは・・・?

(文=仁大ばなし)

岩切学長!夢はありますか?

“Campus of International Christian University”, photo by Hiromu Tanakai©
仁大ばなし
仁大ばなし

岩切先生、本日はわざわざ貴重なお時間をとっていただき、ありがとうございます!

岩切正一郎氏
岩切正一郎氏

いえいえ。

仁大ばなし
仁大ばなし

最初の質問は、僕が先生にとても聞きたかったことなんです。

岩切正一郎氏
岩切正一郎氏

なんでしょう。

仁大ばなし
仁大ばなし

岩切先生!

夢はありますか?

岩切正一郎氏
岩切正一郎氏

夢ねぇ・・・。夢の定義にもよるんだけどね・・・。

仁大ばなし
仁大ばなし

残りの人生で「これは成し遂げたい!」っていうものがあれば教えていただきたいです。

岩切正一郎氏
岩切正一郎氏

そうなると、やっぱり「演劇の翻訳」になるかなあ。

 

良い作品なんだけど、なかなか上演されていないものも結構多いんだよ。

 

ただ、こういうのは演出家やプロデューサーの意向もあるから、かなり偶然の産物ではあるんだけどね。

岩切正一郎氏
岩切正一郎氏

結局のところ、やりたいのは、まだ世に出ていない良作の演劇に関わって、素晴らしいものを生み出していくってことだね。

仁大ばなし
仁大ばなし

かなり演劇に心血を注いでいらっしゃるんですね。

 

岩切先生は、ご自身で詩も書かれていると思うんですが、演劇と詩の関連性っていうのは深いんですか?

岩切正一郎氏
岩切正一郎氏

演劇と詩は、ジャンルは違えど、「声に出して表現する芸術」なんだよね。

 

小説は声に出して読まないでしょ?

仁大ばなし
仁大ばなし

確かにそうですね。

岩切正一郎氏
岩切正一郎氏

詩は、「朗唱」という文脈から来ているから、声に出すことでより大きな魅力を感じられるんだよ。

多義的な「詩」と一義的な「お知らせメール」

“Ambiguous and Unambiguous”, photo by Hiromu Tanakai©”
仁大ばなし
仁大ばなし

先生は詩を書かれていますが、詩は十人十色の受け取り方ができる文学だと思います。

 

一方、岩切先生は学長として、重要事項を伝えるため、一義的なお知らせメールの文面も考えなくてはいけないですよね。

 

無数の解釈ができる詩と、意味を一つに絞らなければいけないお知らせメールというのは違いが大きいと思いますが、そこでの苦労はないですか?

岩切正一郎氏
岩切正一郎氏

それはないね。

 

公示ってのは、大学公式のメッセージだから、決まったことを淡々と知らせるだけなんだよ。

仁大ばなし
仁大ばなし

そうなんですね。

 

でも、岩切先生は、お知らせメールにも文学の引用を付ける(※1)など、「淡々」で終わらせない工夫をされていますよね。

“お知らせメールにてパスカルの言葉を引用する岩切学長” (2021/1/12)
 
岩切正一郎氏
岩切正一郎氏

そうだね。

まあ、あんな引用なんてくっつけなくてもいいんだけど。

 

でも、少し関連している文学のフレーズを、必然性はないんだけど付け加えているんだよね。

 

今の時代や状況を、別の角度から考えるヒントになればいいかなあと思ってさ。

仁大ばなし
仁大ばなし

最近は、コロナ禍のせいで暗いニュースが多いです。

 

そんな中で、岩切先生のメールからはその引用の効果なのか、温かみや柔らかさを感じられるんですよね。

岩切正一郎氏
岩切正一郎氏

メールの引用は、個人の趣味で、オリジナリティーを出させてもらっているって感じだね。

仁大ばなし
仁大ばなし

確かにあのメールスタイルは唯一無二ですね。

 

以前、あのお知らせメールの文面作成にもかなりの時間をかけているとおっしゃっていましたが、それは本当ですか?

岩切正一郎氏
岩切正一郎氏

そうそう。

 

やっぱりお知らせってのは、大学が正式に出す文章だからね。

 

最初のドラフトを僕が作ったあと、皆でチェックしあうんだよ。

仁大ばなし
仁大ばなし

大変なプロセスを経ているんですね・・・

岩切正一郎氏
岩切正一郎氏

お知らせメール作りは、かなりの共同作業なんだよね。

 

昔は、紙で印刷して回したりしてたから、結構大変だったよ。

 

今では、Google Documentで簡単に共有できちゃうけど。

仁大ばなし
仁大ばなし

デジタル時代の恩恵ですね・・・

詩に潜む「二項対立」とICUの「クリティカルシンキング」

“Be Critical”, photo by Hiromu Tanakai©
仁大ばなし
仁大ばなし

岩切先生の詩を読んでいて感じたのは、白と黒のような二項対立的な要素が頻繁に登場するということです。

 

「二項対立」に関して、何か特別な意識というのは、あるんですか?

岩切正一郎氏
岩切正一郎氏

それはあるかもしれない。

 

まず、大前提に「現実と夢」っていうのがあるからね。

仁大ばなし
仁大ばなし

なるほど!

岩切正一郎氏
岩切正一郎氏

あとは、時間的なものと永遠のものとか。

 

そういう対立は頭の中にあるかもしれないね。

仁大ばなし
仁大ばなし

僕が感じたのは、そうした二項対立の考え方と、「多角的かつ批判的」というICUのアカデミックスタイルは相性が悪いのではないかということです。

仁大ばなし
仁大ばなし

例えば、授業内で「白か黒か」という問いを提示されたら、どうしても「片方が正しく、片方は間違い」みたいな思考に陥ってしまうような気がします。

 

そのあたりは、どうお考えですか?

岩切正一郎氏
岩切正一郎氏

対立というより、「二つのあり方」みたいなことなんだよね。

 

その間を行ったり来たりしながら、溶け合って別のものになっているみたいな認識かな。

仁大ばなし
仁大ばなし

0か100に振り切るのではなく、その間を探すということですね。

岩切正一郎氏
岩切正一郎氏

そうだね。

 

そう考えると、ICUのリベラルアーツ観との共存もできると思うよ。

ICUは色々なイベントが行われすぎていて把握しきれません!

“Too Many”, photo by Hiromu Tanakai©
仁大ばなし
仁大ばなし

先日のカフェ・ポニーで、岩切先生はICUに果樹園を作るという話をされていましたね。

 

実は、僕はそれ初耳だったんです・・・

 

このように、ICUは大学主導・学生主導関係なく、たくさんのイベントや催しが行われすぎていて、網羅しきれません。

 

何か対策はありますか?

岩切正一郎氏
岩切正一郎氏

確かにそうだね。

 

全部の一覧があるわけじゃないからさ。

 

事後的に知るイベントもたくさんあるよね。

 

イベント情報をまとめたページとかがあるといいのかな。

仁大ばなし
仁大ばなし

そうですね。

 

公式のプラットフォームがあると、学生側もやりやすいと思います。

岩切正一郎氏
岩切正一郎氏

ただ、誰が管理するのかっていう話になっちゃって、結構大変そうだね。

 

Facebook とか Instagram に皆が投稿できるようにすればいいのかもね。

仁大ばなし
仁大ばなし

僕は、ICUのYouTubeチャンネルを活用したらいいと思っています。

 

学生がイベントの告知動画を作ってきて、公式チャンネルにアップするみたいな。

 

登録が必要でクローズドなSNSよりも、オープンなYouTubeの方が効果はありそうです。

岩切正一郎氏
岩切正一郎氏

イベント情報に関しても、学生がやってくれるとありがたいんですけどね。

 

情報整理クラブみたいなの作ってさ。

仁大ばなし
仁大ばなし

確かに!

 

サークルがあるとスムーズに進むかもしれませんね。

学生との交流とピザ窯プロジェクト

“Place to Communicate and Interact and…”, photo by Hiromu Tanakai©
仁大ばなし
仁大ばなし

岩切先生は、以前「カフェ・ポニー」という学生と交流する場を設けていましたね。

 

先生ご自身は、やはり「学生との交流」は大事にされているんですか?

岩切正一郎氏
岩切正一郎氏

まあ、学長になる前は、教授として学生と一緒に考えていく日々を過ごしていたわけだよね。

 

とりわけ、去年はコロナで人との交流が難しかったから、カフェ・ポニーのようなイベントはずっと開きたいと思っていたんだよ。

仁大ばなし
仁大ばなし

なるほど。

 

学生との交流の中で、岩切先生にとって学びになることもあるんですか?

岩切正一郎氏
岩切正一郎氏

今の若者が何を考えているのかを知るのはすごく面白いんだよね。

岩切正一郎氏
岩切正一郎氏

話は変わるけど、今、寮の学生たちとピザ窯を作ろうっていうプロジェクトが動いてて・・・

仁大ばなし
仁大ばなし

ピザ窯🍕??!!

岩切正一郎氏
岩切正一郎氏

そうそう。ピザ窯。

 

勉強とは関係なく、皆で集まって、飲んだり、食べたり、喋ったりしながら進められたらと思ってるんだ。

仁大ばなし
仁大ばなし

確かにオンライン授業になって、講義だけになってしまいましたからね。

 

学生たちは、ピザ窯作りのような余暇的イベントを求めているかもしれません。

岩切正一郎氏
岩切正一郎氏

学生との交流で思い出したけど、僕は授業でもこういうスタイルだったね。

仁大ばなし
仁大ばなし

具体的には何をやっていたんですか?

岩切正一郎氏
岩切正一郎氏

僕は文学を教えていたから、理論を学ぶのはもちろん大切だけど、大前提に作品・テキストがあるんだよね。

 

小説や戯曲だと、作中にお菓子が出てきたりするわけ。

 

それで寮に住んでいる学生たちが、そのお菓子を作って持ち寄ってくれて、一緒に食べるなんてことはやってたかな。

仁大ばなし
仁大ばなし

文学だけでなく、お菓子も味わうってことですね。

ICUのスペースを有効活用したい!野外フェスに映画館?!

“Cultural”, photo by Hiromu Tanakai©
 
岩切正一郎氏
岩切正一郎氏

交流の場として、この前ICU構内に出来たO’s cafeは非常に面白いと思っているんだ。

 

まだスクリーンも残してあるから、映画会を開いたりできそうだよね。

仁大ばなし
仁大ばなし

確かに!

 

雰囲気も良いですし!

岩切正一郎氏
岩切正一郎氏

教授や学生が好きな映画を持ち寄るってのも面白そうだね。

仁大ばなし
仁大ばなし

学生たちはそういうコミュニティを渇望しているでしょうね。

岩切正一郎氏
岩切正一郎氏

理学館の中身が移転して空っぽになったら、O’s cafeのようなものをもう2, 3個作りたいと思ってるんだ。

 

教授たちはいろいろな趣味を持っているから、それを披露する場にするのもアリかもね。

仁大ばなし
仁大ばなし

めっちゃ良いアイデアじゃないですか!

 

教授は授業ではできないことをして、学生たちはそれを単位を気にせず楽しむ。こんな桃源郷ないですよ!

岩切正一郎氏
岩切正一郎氏

かもね。

 

サックスを吹くのが好きな教授が20分くらいリサイタルやったりとか、活用法はいろいろありそうだよ。

岩切正一郎氏
岩切正一郎氏

それとICUのスペース活用に関して付け加えると、この前、物理の歴舟先生と学生たちが体育館の壁を使ってプロジェクションマッピングをやったんだよね。

仁大ばなし
仁大ばなし

そんなイベントがあったんですね・・・!

岩切正一郎氏
岩切正一郎氏

そうそう。

 

僕は、歴舟先生たちのプロジェクトがきっかけで、体育館周りはとても面白そうなスペースだと思うようになったんだよね。

 

ちょうど芝生が広がってるし、階段みたくなっているところで野外ライブなんてのもアリなんじゃないかな。

仁大ばなし
仁大ばなし

フェス感があって最高ですね。

仁大ばなし
仁大ばなし

確かにICUは広大な土地がありますが、中々上手く使えていない所が多いように感じます。

 

教授や学生からアイデアを募るなどしたら、面白いことがたくさん出来そうです。

ICUの知名度低い問題をどう考えてますか?

“Appreciate”, photo by Hiromu Tanakai©
仁大ばなし
仁大ばなし

ズバリ、岩切先生は「ICUの知名度低い問題」をどう考えていますか?

岩切正一郎氏
岩切正一郎氏

ん〜・・・

 

「知る人ぞ知る」なら良いんだけど、「知られざる」になっちゃうと困るから、広報活動はいろいろとやっているよ。

岩切正一郎氏
岩切正一郎氏

現役学生数や卒業生数っていう物理的な部分も、知名度には大きく関係してるとは思うんだ。

 

そこは仕方のないところだけど、優秀な人には知っていてほしいっていうのは感じるね。

仁大ばなし
仁大ばなし

届くべき人には届いてもらわないとダメってことですね。

岩切正一郎氏
岩切正一郎氏

そうだね。

 

・国際的にものを考えている。
・英語が好きで世界に羽ばたいていきたい。
・リベラルアーツに惹かれている。

 

こうした学生たちにICUを見つけてもらえないのはやっぱり悲しいからさ。

岩切正一郎氏
岩切正一郎氏

受験雑誌とかのインタビューを受けると、だいたい「リベラルアーツの考えはそこまで浸透してませんよね」とか言われちゃうわけ。

 

アーツ(arts)が「芸術」って勘違いしている人も多いからさ。

 

本当は「学問」という意味なんだけどね・・・

仁大ばなし
仁大ばなし

一から説明しないといけないほどに、リベラルアーツ自体の知名度も低いんですね。

岩切正一郎氏
岩切正一郎氏

だから、学生たちみんなが活躍してくれればいいんだよ。

仁大ばなし
仁大ばなし

なるほど!

 

ICU現役生/OPの皆さん、宜しくお願いします🙇‍♂️

仁大ばなし
仁大ばなし

ということで、このあたりでお時間ですので、インタビューを終了させていただきます。

 

本日は本当にありがとうございました。

岩切正一郎氏
岩切正一郎氏

ありがとうございました。

 

編集長まとめ:ICUは一つの「演劇」である


今回の「スペシャ・リスト」では、ICU学長の岩切正一郎氏をお招きしました。

ICUを知らなかった人、興味がある人、現役生やOPの方々。どんな方も楽しめたインタビュー記事だったのではないでしょうか。

私が特に印象に残ったのは「学生が活躍してくれればいいんだよ」という言葉です。

私はこれを聞いて、ICUは一つの「演劇」なのだと確信しました。

学生一人一人が個性的な登場人物で、一つのストーリーを形成していく。この演劇は誰もが知る有名作ではないけれど、根強い理解者は数多くいる。

こう考えると、冒頭の「まだ世間に出ていない良作の演劇に関わりたい」という岩切先生の夢は、ICUの今後とリンクしていると言えます。

ICUという演劇を経験した者たちは、「世界」という大舞台でも大胆に踊ることができるでしょう。

私もこの演劇の中で存在感のある登場人物になれるよう、邁進してまいります。

岩切先生、今回はわざわざ貴重なお時間をとっていただき、本当にありがとうございました。

(文=仁大ばなし)

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※本記事では、田中井大歩氏、一ノ瀬氏が撮影した写真を許諾を得て使用しています。

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